世論調査の結果
2003年11月に行われた第43回衆院選において、新聞・テレビ各社が随時行った世論調査の結果が、政党のみならず私達にとって、国民の政治に対する意識や選挙の争点などを把握することに大いに貢献したことは記憶に新しい。介護保険制度の見直しを検討するにあたっても、世論の動向は重要である。特に、介護保険は、被保険者の「共同連帯」(介護保険法第4条)の精神で支えられているものであり、被保険者の意向を無視した内容の制度見直しでは、制度に対する信頼を損うことにつながる。
内閣府の「高齢者介護に関する世論調査」(2003年7月)をはじめ、朝日新聞社の「社会保障制度の世論調査」(同6月21日付朝刊)、読売新聞社の「社会保障に関する全国世論調査」(同9月11日付朝刊)、同じく同社の「介護保険自治体アンケート」(同10月7日付朝刊)及び毎日新聞社の「健康と高齢社会に関する世論調査」(同10月17日付朝刊)と、全国紙の世論調査結果が出そろったので、これらに基づきながら、介護保険制度の施行状況に対する世論の反応と、見直し議論にあたっての論点を浮き彫りにしてみよう(以下、それぞれの世論調査について、「内閣府調査」「朝日」「読売」「読売自治体」「毎日」と略称することにする。)。
「読売」では、介護保険制度を評価している人が増加していることがわかる。「大いに評価」が13%であり、「多少は評価」45%を加えると、58%の人が評価している。「あまり評価していない」26%、「全く評価していない」8%である。評価している人の割合は、施行直後の2000年9月の調査と比較すると、12ポイント増加している。
ただし、「介護する家族の負担は軽くなったか」との設問に対しては、「そう思う」は29%で、「そうは思わない」35%、「どちらとも言えない」29%と、やや否定的な結果となっている。
「内閣府調査」において、介護保険の周知度を尋ねたところ、「知っている」は56%(「よく知っている」と「ある程度知っている」を合わせた割合)に対し、「知らない」が43%(「ほとんど知らない」と「まったく知らない」を合わせた割合)である。施行後4年目にしては「知らない」人の割合が高い感じがする。もっとも、この調査は、20歳以上を対象としているので、被保険者となっていない20歳代、30歳代では「知らない」人の割合が高いことが影響している。しかし、強制加入で保険料を負担している70歳代でも、3割の人が「知らない」と答えている。保険者などによる継続的な広報活動が必要である。
被保険者の範囲
「内閣府調査」で、介護保険制度について、20、30歳代では7割が「知らない」と答えている現状を見ると、被保険者の年齢引下げ議論も、これらの世代の意見の聴取をはじめ、慎重に検討を進めていく必要があろう。
「毎日」では、40歳以下の若年者からの保険料徴収については、25%の賛成しかなく、34%は「現行のまま」、26%は「保険料ではなく全額税で」と答えている。「朝日」でも、保険料負担の範囲を20歳以上に拡大することについて、賛成51%,反対41%と、2つに意見が分かれている。
介護に対する意識の変化
「内閣府調査」から、介護保険制度の導入が、日本人の介護に対する意識に影響を与えつつあることがうかがえる。望ましい在宅での介護形態を尋ねたところ、「家族だけに介護されたい」は12%と、1995年実施の同様の調査結果と比較して13ポイント減となっているのに対し、「ホームヘルパーなどの外部の者の介護を中心とし、あわせて家族による介護を受けたい」が32%と、10ポイント増加している。「ホームヘルパーなど外部の社だけに介護されたい」も7%と、ほぼ2倍となっている。家族からの介護だけでなく、外部サービスも積極的に利用する、という意識が強くなってきている。
問題点と住み替え意識
「毎日」では、介護保険制度への不安や不満を尋ねている(図参照)ほか、老後生活の場所についての意識を尋ねているのが、興味深い。
「元気なうちはどこに住みたいか」というと82%が自宅、「子どもの家に行く」、「有料老人ホームなどに行く」というのは、各5%。「軽い介護が必要になったら」となると、自宅は55%に減少し、子どもの家が10%に増加したほか、有料老人ホーム、グループホーム及び特別養護老人ホームが各8%に増加する。さらに「ぼけや寝たきりになると」と尋ねると、自宅は22%、子どもの家は7%に減少し、特養が38%、グループホームが19%、有料老人ホームが12%と、施設志向が顕著になる。こうしてみると、高齢者向けの住宅や施設が整備されてくると、要介護度の進展にあわせて希望にあったところに住み替えをする、という行動パターンをとる人が多くなるのではないか、ということを予感させる
(今月のポイント) 小規模・多機能サービス拠点
「高齢者介護研究会報告」(2003年6月)の中で提案されて以来、注目を集めている新たな概念である。しかし、具体的な制度化の案が示されていないので、現状では、言葉やイメージが先行している。
介護保険制度は「要介護状態になっても、可能な限り在宅生活を続けられること」を創設の目的のひとつとしているが、実際には、施設入所申込が増大している。研究会報告では、「在宅では365日・24時間の介護の安心を得ることが極めて困難である」という点に、その原因があるとし、本人や家族の状態の変化に応じて、切れ目なく、さまざまな介護サービスを在宅に届け、安心感を与えるものとして、小規模・多機能サービス拠点を提案している。
報告書から浮かび上がる姿は、次のとおりである。利用者の生活圏域(小学校区または中学校区)ごとに整備され、要介護者が日中通ったり、一時的な宿泊を行ったり、あるいは、緊急時や夜間の訪問サービスを行ったり、さらには居住することもできる。現在のサービスで言えば、デイサービス、ショートステイ、訪問介護事業所等を組み合わせたような施設である。既に宅老所の中にその萌芽がみられる。
世論調査からみた介護保険の課題
【 第10回 2004年1月 】