介護保険財政は破綻する?

 地方自治体関係者から、「介護保険財政はいずれ破綻するのではないか」という声が聞かれる。保険給付費の伸びが著しい一方で、保険料負担の引上げが将来的には困難、という懸念からのものである。保険料は3年ごとの改定で、平成15年度には全国平均で13%アップ、月額平均3,293円となったが、保険給付費の伸びは年率約10%であるので、次回改定の平成18年には月額4,000円を超えると予想される。夫婦2人で月額8,000円を徴収できるだろうか、保険者の市町村としては、頭を抱えるところである。
 第2号被保険者にとっても、厚生年金保険料が毎年0.177%増、国民年金保険料も増、医療保険料も増という中で、ほとんど保険給付の資格がない介護保険料がアップしていくことに対して不満が高まるであろう。
 保険料を徴収しやすくするために、遺族年金や障害年金からの保険料天引きをという提案があるが、仮にそうしたとしても、保険料負担増という構造は変わらない。この問題の解決のためには、「入るを量りて、出ずるを制する」手法しかない。そこで、次のようないくつかの案が考えられる。

(1)被保険者の範囲の拡大、公費負担の増による保険料負担軽減策
(2)要支援者を対象外とするなど保険給付の対象者の見直し
(3)ホテルコストの徴収など一部負担の引上げによる給付費増の抑制
(4)社会保障の総合調整のよる社会保障全体での保険料負担増の抑制


対象者の見直しは可能か?

 このうち、被保険者を40歳未満にまで拡大して、介護保険の支え手を増やすという案については、既にこの連載の第1回から第3回で論じたとおり、保険給付がないまま保険料負担増を求めるということ対して異論がある。公費負担について、地方自治体関係者からは、国の5%の調整交付金を外出しにすべきという提案がある。そうすると、保険財政全体では、公費55%、保険料45%となる。しかし、現行制度でも、国保の第2号被保険者保険料に国庫負担が入っていることから、実質的には、公費58%前後となっているし、社会全体では保険料負担も税負担も国民の負担としては同じである。
 最近、要支援者を保険給付の対象外にすべき、という意見が聞かれる。介護保険財政としては負担が緩和されるが、他方、一般会計で要支援者のための介護サービス提供を行うとすれば、国、地方自治体の公費負担は増加する。最近、要支援者の増加が目に付くが、保険給付全体では3%弱であり、さらに、制度検討時点で想定していた「虚弱高齢者数」よりははるかに少ない。要支援者よりも、保険給付の支給限度額が2倍から3倍となる要介護1や要介護2のほうが、保険財政に与える影響は大きい。この問題は、つまるところは、要介護認定基準の内容など認定方法に帰する問題である。


利用者負担増と社会保障の総合調整

 医療保険と同様に、一部負担の引上げにより、保険財政の負担緩和や介護保険利用の適正化を図るという手法が、当面は現実的な政策と考えられる。保険料負担が重いといっても、ひとたび介護保険の利用者になると、保険料負担をはるかに上回る保険給付を享受することができる。たとえば、介護保険施設に入所すれば、要介護度が低い場合でも月約30万円前後の給付を受け、しかも、継続的に給付を受ける。被保険者間で、サービスの利用者と未利用者との間では、介護保険から受ける利益に大きな格差が存在するのである。したがって、介護保険施設におけるホテルコストの徴収は避けて通れない課題であろう。
 しかし、こうした対応以外に、①社会保障全体での調整による保険料負担増の緩和と、②保険料負担に納得できる保険給付のあり方、について提案したい。
 たとえば厚生年金受給者が介護保険施設に入所すると、老齢年金が年額約200万円支給される以外に、介護保険から年額約360万円の保険給付が行われることになる。社会保険料の負担緩和のためにも、これらの保険給付の相互調整を図る時期に至っている。あるいは、相続財産からの徴収という方法が検討されるべきである。
 仮に保険料負担が増加するとしても、より多くの被保険者が介護保険から利益を受ける可能性が高くなれば、負担増への納得が得られやすいあろう。この観点からみると、現行制度では、第1号被保険者の約12%程度しか保険給付を受けていないため、他の88%の人たちから不満が出る、という構造になっている。介護予防事業や配食サービス等への給付、介護手当の創設、第2号被保険者への保険給付の拡大、若年障害者への適用などの対応策が考えられる。


(今月のポイント) 介護保険財政の状況

 介護費用(介護保険給付費と利用者負担額を合計した額)は、年率約10%の伸びと増加傾向にある(表参照)。社会保障審議会介護部会(平成15年9月12日)の資料によれば、保険給付費の増加の原因は、在宅給付費の増加が大きい。平成12年と平成14年の平均月額給付費を比較すると、全体では31%の伸びであるが、在宅給付費は64%の伸び、施設給付費は14%の伸びとなっている。1人あたり給付費では、在宅は11%増、施設は1%減、利用者数の伸びでは、在宅は48%増、施設は16%増である。このことからわかるように、第1に在宅サービスの利用者の増大が、第2に1人当たり在宅サービス利用額の増大が、保険給付額全体を引き上げていることがわかる。
 なお、介護保険制度検討時点(平成9年)において、平成17年度の介護費用総額は7兆円と見込まれていた。介護報酬も要介護認定の詳細も決まっていなかった段階の「粗い試算」が、ほぼ実態とあっていることに驚かされる。

介護保険財政をめぐる課題

【 第11回 2004年2月 】

© 2016 by Masuda Institute for Social Security.

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