新聞各紙の『改正案』

 厚生労働省では、1月8日午後、事務次官を本部長とする介護制度改革本部が初会合を開いた。平成17年度に予定されている介護制度改革について、福祉、医療、年金など制度横断的な検討・調整を行うという。「介護保険制度施行5年を目途とした見直し」のための論議及び成案づくりが、いよいよ本格化することとなる。
 1月に入ってから、新聞各紙でも、介護保険見直しに関する記事が1面を飾ることが多くなった。いわく、被保険者の範囲を20歳までに引き下げて若年者からも保険料負担を求める、介護保険施設入所者から住居費を徴収する、要支援や要介護1という軽度の高齢者は訪問介護などの従来の在宅サービス対象から外して、介護予防サービスを新設する、あるいは家事援助の利用前に介護予防を義務付ける、などである。大きな活字の見出しをみると、既に厚生労働省は成案を決めたかのようである。しかし、言うまでもないことであるが、厚生労働省が試案を示すのは、審議会の議論がまとまる今夏以降と予定されており、現時点での新聞記事は、すべて新聞社の観測記事にすぎない。記事の内容は、ある程度まで審議会等の議論を踏まえてはいるが、実際にそのように決まるかどうかは不明である。


利用者負担の引上げ

 これらの新聞に報道された見直し案の中で、今回は、利用者負担の引上げについて論じてみよう。
 現行制度の定率1割負担に対して、2~3割負担に引き上げたらどうか、という提案が、財務省サイドの財政制度等審議会からなされている(平成15年11月「平成16年度予算の編成等に関する建議」)。この提案の背景には、要支援・要介護者数の増や介護サービス利用量の増による保険給付額の急増によって、国や地方自治体の負担増、保険料負担の増、財政安定化基金からの借り入れ増といった介護保険財政の将来に対する懸念がある。利用者負担を引き上げることにより、介護給付費の増加を抑制し、国庫負担の増大に歯止めをかける、という財政当局のねらいがうかがえる。


医療費の一部負担との関係

 定率1割負担という自己負担は、制度創設時において、老人医療費の一部負担を相当意識して設定されたものである。すなわち、1990年代半ばにおいては、老人医療費の一部負担は低額な定額負担であって、老人医療費全体の5~6%程度に過ぎなかった。政府は、老人医療費増大を抑制する観点から、一貫して一部負担の引上げのための制度改正案を国会に上程してきたが、野党などの反対が強く、常に小幅な引上げにとどまってきた。そこで、高齢者の介護サービス利用にあたって定率1割負担を導入することは、老人医療費の一部負担についても定率負担を導入するための深慮遠謀でもあったのである。
 実際、老人保健制度では、平成12年改正により、月額上限付きではあるが初めて定率1割負担が導入されることとなった。さらに、平成14年改正では、低水準の上限が撤廃され、定率1割負担が基本となった。高所得の高齢者の場合には定率2割負担となったことから、今度は、医療保険の一部負担の方が介護保険の負担割合を追い越すことになった。


定率負担の引上げはどのように行うか

 以上の経緯や一部負担の意義(今月のポイント欄参照)等から考えると、高齢者の利用者負担について、老人医療費の一部負担の内容と歩調をあわせるということが考えられる。しかし、被保険者の範囲拡大のために年齢を引下げ、若年障害者に対しても介護保険を適用することとした場合の利用者負担は、医療保険と同様の3割負担が適当であろうか。
 介護保険制度の利用者負担を考えるとき、介護保険給付と医療保険給付の性格の相違について留意する必要がある。患者にとって医療保険の適用は一般的には一過性のもの(治療が終われば負担はなくなること)であるが、介護保険の場合には、利用者は継続して(場合によっては一生)介護サービスを利用することが多いだろう。そうした場合、3割負担というのはかなり重い負担といわざるをえない。在宅の要介護者の場合、毎月約10万円の利用者負担となる。被保険者の年齢引下げに伴う若年障害者に対する介護保険の適用も、現行の措置制度に比べて、利用者負担が急増するとするならば、反対の声が強くなるであろう。
 必要な介護サービスの利用を阻害しない、介護費の負担を過度に重くさせない、誰でも介護サービスを利用できる、といった介護保険制度の趣旨にのっとれば、定率負担はせいぜい2割負担程度が限界であるし、負担能力に応じたきめ細かな負担軽減策を講じる必要があるだろう。また、サービスの過剰利用対策として、サービスの種類によって負担割合を変更するという方法も考えられる。利用者負担の見直しという方法による保険給付費の抑制は、引き上げた時点での効果にとどまることが多く、長期的には、介護予防事業の推進や、介護報酬水準や保険給付範囲の見直し、民間介護保険の活用などの対策を検討する必要がある。
 本連載は今回で終わります。ご愛読ありがとうございました。


(今月のポイント) 利用者負担

 介護保険制度では、被保険者が介護サービスを利用したときに支払う利用者負担として、①保険給付の1割負担、②介護保険施設における食費の標準負担、③その他の負担(理美容代やグループホーム等における家賃相当分の負担、新型特養の居住費負担など)がある。このうち、①は、すべての介護サービス利用者に適用されるものである。
 なぜ、保険給付にあたって一部負担が制度化されているのであろうか。介護保険よりも歴史が長い医療保険を参考にしてみよう。医療保険制度では、被用者保険の被保険者本人に対して、最初は、一部負担はなかったが、1984年に1割負担が導入され、現在では3割負担となっている。老人医療費の世界では、1973年に無料化の措置がとられたが、その後、老人保健法に基づき一部負担を徴収するようになっている。このように、一部負担のない保険給付はなく、何らかの利用者負担を徴収することが基本になっている
 一部負担導入の理由としては、①コスト意識の喚起、②保険財政の負担緩和、③サービスの過剰利用に対する抑制、④サービスを利用する人と利用しない人との間の負担の不公平の緩和、等が挙げられる。ただし、一部負担が大きすぎると、保険給付の利用そのものを阻害することにつながり、被保険者の利益に反する。ちなみに、ドイツ介護保険では、1割負担というような利用者負担はないが、保険給付の額の水準は日本の制度よりは低い。

利用者負担の行方 

【 第12回(最終回) 2004年3月 】

© 2016 by Masuda Institute for Social Security.

  • Facebook Black Round
  • Google+ - Black Circle
  • Twitter Black Round