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要介護認定の課題

 介護保険制度の創設時には、要介護認定の一次判定(コンピュータ判定)の方法に対して、被保険者からは不安の声が、有識者の中からは否定的な意見が出された。コンピュータ判定では正確な判定が難しいのではないか、痴呆性老人の要介護度を判定できないのではないか、調査項目が不十分ではないかなどであった。そのため、施行後においても、厚生労働省では要介護認定調査委員会を設けて検討を加え、平成15年度からは、要介護認定ソフトの改訂や判定方法の改善を行った(今月のポイント参照)。
 一次判定の方法については、制度施行前にモデル事業を重ねて細かな修正がなされてきたし、15年度からの改善によって、一次判定の結果に対する不満はだいぶ小さくなったように見受けられる。もともと、一次判定の結果が全てではなく、介護認定審査会による2次判定が最終結果となることや、有効期限が設定されていて定期的な見直しが行われることなど、仮に一次判定に疑問がある場合であっても、その疑問を解消させるような手法が取り入れられている。



要介護高齢者の急増

 施行後4年目を迎えた現在、要介護認定の課題としては、特に介護保険財政と関連して、次の2点を指摘したい。
 1点目は、予想以上の要介護高齢者の急増である。施行から3年間で、要支援・要介護者数は60%の伸びと、この間の高齢者人口の伸び10%をはるかに上回る増加ぶりである。今や、65歳以上人口の14.5%は要支援・要介護者、実数では350万人である。これは、日本人を仮に100人とすると、そのうち3人は要支援・要介護者ということになる。厚生省が、制度施行前の1999年11月に推計した数字では、2003年度では303万人、65歳以上人口の12.7%であったから、現実は、実数で約50万人、割合で2ポイントも上回っている。
 第1号被保険者に対する要支援・要介護者の割合に地域格差があるというのも、課題である。地域によって高齢者の自立度や要介護度の分布に差があるのか、それとも要介護認定の手続きや判定方法において保険者間で相違があるのかどうか、興味深い研究課題である。いずれにせよ、予想以上の要支援・要介護者数の伸びが、年間10%という介護給付費の高い伸びに反映しており、介護保険財政安定化の懸念材料となっている。要介護高齢者数の急増を緩和、あるいは減少させる対策が必要となっている。


要支援者に対する介護サービスのありかた

 2つ目の課題は、要支援者に対する介護サービスの提供が、自立支援につながらず、かえって要介護度を悪化させる方向で作用しているのではないか、という課題である。
 日本医師会総合政策研究機構と島根県健康福祉部高齢者福祉課の共同調査事業である「介護サービスの有効性に関する調査研究」(2003年7月)によれば、要支援と認定された高齢者の2年後の状況をみると、約5割の人が要介護度が悪化している(図参照)。全体では、約3割の人が悪化しているのに比べて、高い割合となっている。日本医師会では、要支援や要介護度が低い高齢者に対する介護サービスメニューが間違っているか、適切なサービスが提供されていないのではないかと、指摘している。
 たとえば、同調査によれば、要支援者に対して車いすや移動用リフトの貸与されている。要支援者は歩行機能が低下しやすいが、これらの福祉用具の利用は歩行機能の悪化を助長しかねない。また、要支援者のうち約8割の人には、1種類だけの介護サービスの提供であり、その内容も訪問家事かディサービスがほとんどとなっている。
 介護保険制度では、要支援者と要介護者とでは、介護保険の適用に明確な区別を設けている。制度上、要支援認定と要介護認定とに区別され、保険給付の名称も、予防給付と介護給付とに区別され、予防給付には施設サービスは除外されている。介護保険制度では、要支援者は予防給付を利用することにより、心身の自立を維持したり、要介護度の悪化をとどめたりすることをねらいとしている。
 介護保険制度の立案過程において、「要介護者」とは別に「要支援者」というカテゴリーをつくるか否かということは、旧厚生省内部で議論となった。ドイツの介護保険制度では、こうした類型は存在しない。しかし、従来の老人福祉制度では、施設入所の対象となる「寝たきり者」という概念以外に、「虚弱者」もホームヘルプサービスの対象とされていた。そこで、この「虚弱者」に対して介護保険制度下でも介護サービスを利用できるようにするために「要支援者」という類型を創設したわけである。
 こうした経緯や制度上の仕組みから考えても、要支援者を「要介護者予備軍」にすることは適当ではない。要支援者の身体面での自立を促進するような介護サービス、たとえば、機能維持のためのリハビリテーションや、筋力トレーニング(またはパワーリハビリ)等の介護予防サービスを取り入れることなど、要支援者にふさわしいサービスを組み合わせたケアプランの研究を深める必要があろう。


(今月のポイント) 要介護認定の改訂

 平成15年度から、要介護認定の一次判定(コンピュータ判定)の実施方法が改定された。従来の要介護認定基準に対しては、痴呆性高齢者の要介護度が低く評価されているのではないか、在宅における介護の状況を反映していない、等の指摘がなされてきた。そこで、厚生労働省では、平成12年に要介護認定調査検討会を設置して検討を進めるとともに、高齢者介護実態調査やモデル事業等の結果を踏まえて、新たな要介護認定ソフト(改訂版)を作成し、実施方法について改訂を行った。
 主な改訂点としては、①従来の認定調査項目85項目から、12項目を削除し6項目を追加して、全部で79項目としたこと、②樹形モデルの数を9種類から8種類としたこと、③要支援認定の基準を改めたこと、④運動能力の低下していない痴呆性高齢者について、一定の条件を満たした者に対して指標を提示し、その結果を一次判定に反映すること、⑤要介護度の変更について、状態像の例ほか3つの参考指標を用いて妥当性を検証すること、などである。これらにより、要介護認定等基準時間や痴呆性高齢者の一次判定がより正確になることをねらいとしている。

要介護認定と介護サービス

【 第9回 2003年12月 】

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