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一部負担の影響

 介護保険が導入されたとき、1割負担という利用者の一部負担制度が、介護サービス利用の制約になるのではないかと懸念された。措置制度時代においては、たとえばホームヘルプサービスの利用者の約8割は、所得税非課税世帯等の理由から利用者負担は無料、という具合に、利用者は無料または低額の負担でサービスを利用していたからである。
 しかしながら、施行後の状況をみると、措置制度時代と比較して、飛躍的に介護サービスの利用者は増大している。各種アンケート調査結果をみても、「利用料負担が増大したので、サービスの利用量を減らした」という人は、全体からみればごく少数にすぎない。逆に、措置制度時代よりも負担が緩和したという人もいる。ホームヘルプサービスの利用者が、平成13年4月から平成15年4月までの2年間に50万人から90万人に増加したように、一部負担制度にもかかわらず、サービス利用は拡大している。
 もちろん、次のような利用者負担の軽減措置がとられたことも、効果的であったろう。①毎月の利用者負担に上限を設けた高額介護サービス費制度を設け、低所得者に対してはさらに上限を低く設定、②施設入所の場合には、食費の標準負担を引下げ、③法施行時にホームヘルプサービスを利用していた人に対する利用者負担の軽減、社会福祉法人が行う軽減措置等の特別対策の実施である。


一部負担をめぐる課題

 今回の見直しでは、次のような課題がある。
(ア)施設の居住費(いわゆるホテルコスト)の徴収
 個室・ユニットケア型の特別養護老人ホーム(いわゆる新型特養)の整備に伴い、平成15年度から、新型特養では、月4万から5万円の居住費(個室設置費用、光熱水費等)が利用者負担となった。なお、低所得者には、一定の軽減制度が設けられた。
 居住費の自己負担は、介護保険施設では新型特養が初めてであるが、かねてから、施設利用者と在宅利用者との間、あるいは特定施設入所者生活介護適用の有料老人ホーム・ケアハウスやグループホームと、介護保険施設の間での居住費の自己負担の有無が、問題とされてきた。したがって、介護保険施設全体でも、居住費の自己負担について検討する必要があろう。
(イ)医療保険制度の自己負担割合との整合性
 平成14年の健康保険法等の改正により、高齢者の医療費の一部負担は、1割負担(一定以上の所得の場合には2割負担)となった。おおむね介護保険と同一になったわけであるが、医療費が2割負担の高齢者にとっては、たとえば介護療養型医療施設と療養病床のように、医療と介護分野で類似したサービスの自己負担割合が異なることとなった。細かな点まで整合性を図る必要性は乏しいであろうが、新たな高齢者医療制度の検討が進められていることもあり、医療分野の自己負担割合をめぐる論議を注視する必要がある。


国レベルのリバースモーゲージの創設を

 高齢社会に不可欠な制度として、かねてから論じられてきたものに「リバースモーゲージ」がある。これは、高齢者が居住する住宅や土地を担保として、定期的に融資を受け、介護費用や生活費にあてるという仕組みである。借り受けた資金については、利用者の死亡や転居等の理由により契約が終了した時点で、担保不動産を処分することによって一括返済する。いわば不動産を現金に代える資産活用方法である。高齢者の生活費の補てんという機能ばかりでなく、現役世代による高齢者への社会保障負担を緩和する機能を持つ。
 アメリカでは、住宅開発省による政府保証付きのリバースモーゲージが制度化されており、契約件数が多い。日本では、1980年代に武蔵野市をはじめ一部の自治体が先駆的に試みた例があるが、実際の契約例は極めて少ない。リバースモーゲージが制度として安定的に運営されるためには、「長生きリスク」「金利変動リスク」「経済変動(資産価値変動)リスク」に対する的確な対応措置が不可欠であるが、一地方自治体や一信託銀行などでは、対応しきれない。
 高齢者世帯の平均的な金融資産額約2,600万円、住宅宅地資産額約3,800万円(注)を有効に使わないことには、高齢者本人にとっても、社会にとっても問題が多い。そこで、筆者は、政府の監督の下に、公的団体(特別行政法人)が債務保証をする日本版リバースモーゲージの制度化を提案したい。
 債務保証の財源としては、税制の公的年金等控除を廃止して得られる増税分を活用する。利用者である高齢者からは、不動産を担保にした資金融資ばかりでなく、高齢者の金融資産を運用して生活費等を支給するサービスも組み合わる。また、利用者が死亡した場合には、不動産を処分する方法ばかりでなく、利用者の金融資産から相殺する方法や、相続人からの返済による方法も認める。これにより、リバースモーゲージを利用した場合に不動産がなくなってしまうという不安感を解消する。
 本年度から、長期生活資金貸付制度(今月のポイント欄参照)という、低所得高齢者の持家の土地を担保にした貸付制度が始まった。この制度を、公的団体や民間金融機関主体で再構成したものが、図の私案である。そろそろ本格的に国レベルのリバースモーゲージの創設を検討する時期に至っている。
(注)平成15年9月15日日本経済深新聞「経済教室」(酒井博司)参照


(今月のポイント) 長期生活支援資金貸付制度

 平成14年度から、生活福祉資金貸付制度の中に新たに設けられた制度。一定の居住用不動産を持ち、将来にわたってその住居に住み続けることを希望する高齢者世帯に対して、その居住用不動産(土地)を担保として生活資金の貸付を行うことにより、その世帯の自立を支援することを目的とする。
 貸付対象者の条件は、単独(同居の配偶者との共有を含む)で所有する不動産に居住していること、世帯の構成員が原則として65歳以上であること、配偶者または親以外の同居人がいないことなど。貸付限度額は、居住用不動産(土地)の評価額の70%程度。貸付期間は、貸付元利金が貸付限度額に達するまでの期間または仮受人の死亡時までの期間。貸付額は、1月あたり30万円以内の額。貸付利子は、年率4%か長期プライムレートのいずれか低い率。償還期限は、借受任の死亡など貸付契約の終了時。
 実施主体は、都道府県社会福祉協議会であり、申込み窓口は市町村社会福祉協議会である。厚生労働省社会・援護局地域福祉課によれば、本年7月1日現在で、25の都道府県社協が実施体制を整備している。

一部負担のあり方

【 第8回 2003年11月 】

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