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保険料負担への疑問

 本年6月11日の朝日新聞に、広島県の男性(70歳)から「利用しないのに徴収される介護保険料に不満」という、次のような記事がでていた。
 男性は、若い頃から老後に備えてきた。年額150万円の厚生年金のほかに年額150万円の個人年金を受け取り、週3日会社で働いて、月10万円の給料を得ている。妻は亡くなり、子どももいない。 年間7万円払っている介護保険料に不満という。夫婦で、入退院を繰り返した両親を介護した。親の面倒をみるのは子どもの義務だと考える。自分には子どもがいないから介護が必要になった時に備えて貯蓄をしてきた。これからも介護保険を利用するつもりはない。「なぜ、こんな高額の保険料を徴収されるの納得できない」と話す。
 記事によると、この男性の年収は420万円。70歳でも就労しており、自助努力の意識が大変強い。介護保険料は平均の約2倍、年額7万円という賦課限度額(上限)に達している。介護サービスを利用しないのに、年収の1.7%を占める介護保険料の負担に納得しがたいというのである。


保険料の課題

 第1号保険料に対する課題としては、すでにさまざまな論点が指摘されている。保険料の賦課方式の問題(税制上の矛盾や世帯概念を持込んでいるために、不公平な部分があるのではないか)、保険料の区分のあり方(世帯の負担能力を考慮した所得段階別区分の見直し)、保険料特別徴収範囲の拡大(すべての年金から特別徴収を可能とすべき)、保険料減免問題保険料の減免を国の負担で行う)などである。
 ただし、これらはどちらかというと保険者サイドの考えで、被保険者サイドからは、冒頭の男性の意見のように、サービスを利用していないのに負担ばかりが増える、ということに不満を持っている人は多いものと想像できる。介護保険料は年金から天引きされている人がほとんどなので、不満が具体化(たとえば納入拒否など)することは少ないとしても、制度の維持のためにはおろそかにできない点である。


社会保険料の考え方

 社会保険は、被保険者が保険料を拠出して、いざというときの保険事故に備えるという仕組みである。保険料負担は、社会保険を支える財源であるとともに、共同連帯の精神の表れである。自分のためになると同時に、他人のためにもなる、というのが社会保険の保険料負担である。
 ところが、医療保険、年金保険、介護保険を比較すると、被保険者からみて保険料の意義が微妙に異なっている。まず、医療保険であるが、たとえば国保の保険料の上限は年額53万円と、介護保険料よりはだ相当高い。けれども、年間まったく医療機関にかからないという人は少数であるし、病気の予測はつきにくい。医療を受けるために保険料を負担することには、納得がいくであろう。
 年金の場合には、医療保険と比べると、保険料を支払う動機付けは弱い。国保保険料と国民年金保険料の徴収率の差がそれを物語っている。ただし、きちんと支払っていれば、高齢になったときに必ず年金を受給できる。
 ところが、介護保険は、保険料負担と給付との関係が希薄である。86%の被保険者は保険料負担のみで受給がない。保険給付を受けるには要介護者として認定をされなければならない。3種類の社会保険の中では、一番「掛け捨て」的な性格が強い保険料である。だからといって、皆が要介護者になって保険給付を受けるようになると、介護保険財政は破綻してしまう。介護サービスは利用しないが保険料負担をしてくれる多くの高齢者が存在することにより、財政全体のバランスがとれている。


どう対応したらよいのか

 高齢化の進展等により介護給付が増加し、保険料負担も増大するという傾向に変わりはないとすれば、「サービスを利用しない被保険者の保険料負担」問題に対しては、どのように考えたらよいだろうか。被保険者サイドに立った対案として、次のようなものが考えられる。①支え手を増やす(第2号被保険者の年齢の引下げ案につながる)、②公費(税)の投入割合を高める、③保険給付を受ける人の割合を高める。
 ①や②の案は、高齢者以外の負担を導入することにより、保険料負担を緩和しようとするものである。ただしこの手法は、介護費全体が増加していけば、全体として負担が増加していく傾向に変化はない。③の案は、現在のような保険料負担と給付とが希薄な関係ではなく、介護保険から受益を受ける人を増やして、保険料負担の価値を高めようという案である。介護予防給付やリハビリ給付、介護手当などが候補になる。ただし、この場合、保険財政全体の膨張を防ぐために、現行の「気前の良い給付」(たとえば、施設入所者は、低い自己負担で、毎月36万円の介護費、年額約430万円、それを何年も続けることが可能という仕組み)を見直すことも重要であろう。


(今月のポイント) 保険料の改定

 第1号被保険者(高齢者)の保険料(第1号保険料)は、3年ごとに改定される。平成15年度は最初の改定であり、各保険者は前年度に、介護保険事業計画の改定とあわせて、保険料改定作業を行った。1人あたり保険料を全国平均でみると、第1期(平成12~14年度)では月額2,911円だったのが、第2期(平成15~17年度)では月額3,293円と、13%の上昇となった。第2期では、全保険者のうち80%が保険料基準額の増額となっている。全国で最も高い保険者は、鶴居村(北海道)で基準額は5,942円、最も低いのは秋山村(山梨県)で1,785円。約3.3倍の格差となっている。
 第1期の保険料基準額の分布状況をみると、「2,500円超~3,000円以下」のランクに全体の約半分の保険者が入っていた。第2期でも前述のランクにはいる保険者が最も多いが、全体の割合では33%に減少し、その分、基準額が高いランクに入る保険者が増大するという結果になっている。
 保険料の負担増に対して、定額保険料のきざみを5段階から6段階にして、低所得者の負担を緩和する保険者が増え、本年4月からは230保険者が6段階制を実施する。また、保険料の単独減免を行う保険者は、本年4月から681保険者となっている。

保険料負担のあり方

【 第7回 2003年10月 】

© 2016 by Masuda Institute for Social Security.

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