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第3のカテゴリー

 最近、「在宅」でも「施設」でもない「第3のカテゴリー(類型)」のサービスという考え方が、主張されるようになってきた。その内容は必ずしも明確ではないが、特定施設(特定施設入所者生活介護)やケアハウス、グループホーム、高齢者住宅などのように、自宅で1人または家族と生活をするという「在宅」ではなく、多人数で共同生活を送る「施設」とも異なり、在宅的生活でありながら、施設入所の場合と同様に食事や介護のサービスを受けることができる形態を指しているようである。
 「第3のカテゴリー」が議論されるようになった背景としては、次のような事情をあげることができる。第1は、施設サービスで一般的であった集団処遇型ケアから、個人処遇型ケアである個室・ユニットケアへの変化が次第に大きな流れとなってきたことである。本年度の介護報酬改定では、新たに介護老人福祉施設(特養)における個室・ユニットケアの介護報酬が設定され、施設整備費補助金もこうした新型特養への補助が原則となった。個室・ユニットケアは、施設に入所しても、在宅生活との継続性や個人の生活スタイルを尊重するものであり、施設生活の在宅化といった傾向を促進する。第2は、新型特養以外の施設でも、個室・ユニットケアの処遇方法が広まってきていることである。まず、近年急増している痴呆性老人のグループホームは、基本的に個室・ユニットケアとして運営されている。また、特定施設である有料老人ホームやケアハウスでも、個室・ユニットケアが一般化しつつある。国土交通省では、これまでのシルバーハウジングに加え、高齢者向け優良賃貸住宅の整備を促進しており、介護サービスはついてはいないが、将来的には「第3のカテゴリー」に分類できそうである。


介護報酬のあり方

 介護保険給付では、各種サービスを在宅サービスと施設サービスに分類しているので、「第三のカテゴリー」論は、従来の「在宅・施設2分論」に見直しを迫る可能性がある。介護保険見直しの論点との関係でみると、次のような課題が浮かび上がる。

(1)グループホームと特定施設の位置づけ
 現行制度では、痴呆性老人のグループホームと特定施設は、在宅生活の延長と位置づけられ、その保険給付は「在宅サービス」とされている。このため、「施設サービス」である介護保険施設に対する介護報酬と比較すると、グループホームや特定施設の場合には、食費代や、光熱水費、居室代等のいわゆるホテルコスト(居住費)は介護報酬には含まれず、自己負担が基本である。しかし、入所者の入所希望や生活実感からすると、施設入所と同様の意識であろう。一方で、介護保険施設側でも、個室・ユニットケアである新型特養において居住費が自己負担となってくると、グループホームや特定施設との区分が不分明となってくる。したがって、あらためて、在宅サービスと施設サービスの区分を再検討するとともに、介護報酬がカバーする範囲の整合性を図る必要性が生じてくる。
(2)「第3のカテゴリー」の明確化と介護報酬
 「第3のカテゴリー」のサービスといっても、冒頭に紹介したようなサービスであるとするならば、現行の「在宅」と「施設」の2分類という考え方でも対応が可能である。たとえば、高齢者住宅の場合、全体としては個々の「在宅」の集合体であるので、個々人に対して在宅サービスの利用限度額を設定している現在の方法により在宅サービスを活用できる状態であれば、あえて新たなサービス区分を設定する必要性は乏しい。ただし、新たな形態のサービスが登場してくる可能性もある。高齢者デイサービスセンターに住居機能を付加した施設や、痴呆性老人ではない要支援・要介護者のためのグループホームなど、在宅的であり、かつ、施設的なサービスを享受できるという施設である。こうした場合、介護報酬ではどこまでカバーするのが適切かという課題が論点となる。


施設経営への影響

 個室・ユニットケアの進展・普及や「第3のカテゴリー」論は、既存の介護保険施設のあり方にも影響を与えるであろう。それは、単に、入所者のニーズが4人部屋から個室・ユニットケアに移るという次元のものではなく、施設サービスとは何か、という根本的な議論である。集団処遇型ケアは、ケアコストの効率化、施設機能の有効活用といった点ではメリットがあったが、個人処遇型ケアが中心になると、こうしたメリットへの評価は低下し、施設という「大きな箱」の存在意義も薄らいでくる。特養、老健施設といった施設概念が古臭いものという意見が出るかもしれない。
 しかし、筆者としては、個室・ユニットケアが進展したとしても、共同ケアによる介護保険財政の効率的運用や、介護職員に対する処遇や資質の向上という点では、一定規模の経営体が必要であると認識しているので、現行の施設類型が否定されることはないものと考えている。しかし、施設運営にあたっては、入所者が在宅のような感覚で日常生活を送ることができる「脱施設」的な生活とケアという考え方が一般化してくるため、その対応が必要になるであろう。


(今月のポイント) 個室・ユニットケア

 2002(平成14)年度の特別養護老人ホームの施設整備費補助金制度において、初めて全室が個室でユニットケアを行う特別養護老人ホームの整備が推進されることとなった。従来の特養とは異なるものとして「新型特養」と呼ばれた。
 新型特養のねらいは、4人部屋主体の居住環境を抜本的に改善するとともに、集団処遇型のケアから個人の自立を尊重したケアへと転換を図ることにある。
 まず、全室個室を原則とする。個室の広さは8畳(約13㎡)程度とし、収納スペースや洗面設備スペースを含む。トイレについては分散し、できるだけ居室に近いところに設置する。ユニットケアとは、施設内の個室をいくつかのグループに分けて、それぞれをひとつの生活単位として、少人数の家庭的な雰囲気の中でケアを行うものである。新型特養では、10人前後をユニット(生活単位)とするユニットケアを原則とする。
 2003(平成15)年の介護報酬改定にあたっては、「小規模生活単位型介護福祉施設サービス費」として、独自の介護報酬が設定された。個室部分のスペースや器具・備品代や光熱水費については、居住費として、入居者の負担となる。


 

                                    

                                                                     ユニットケアのイメージ図

「脱施設」の生活とケア

【 第5回 2003年8月 】

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