一元化は当初からの懸案事項
介護保険制度では、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設(老人保健施設)及び介護療養型医療施設(療養病床等)の3施設が介護保険施設として、施設サービスを担っている。
介護保険制度創設の検討段階では、これら3施設のあり方を見直して、一元化したあとで保険給付の対象施設とするという案もあったが、検討のための時間的余裕がなかったことや、制度の円滑な施行を優先するといった考え方から、それぞれの施設機能や法的根拠は従来のままとした上で、介護保険という共通の土俵にのせるという取り扱いとなった(ただし、老人保健施設だけは、その根拠規定を老人保健法から介護保険法に移した)。そして、制度施行後の状況を見て、3施設の一元化等の課題について検討するという想定から、法附則第4条の規定のとおり、施設関係については施行後10年を経過してからの検討課題とされた。
しかし、施行3年間を経て、介護保険施設をめぐっては、早急に取組みが必要なさまざまな検討課題が見えてきた。
4つの検討課題
介護保険3施設に関する課題を、列挙すると、次のとおりである。
①(法制度面)3施設の法的根拠規定が、老人福祉法、介護保険法及び医療法とに分かれているため、設置手続き(特養ホームは認可、老健施設及び療養施設は許可)や都道府県の担当部局が異なるなど、一元的な指導監督体制とはなっていない。
②(補助制度面)特養ホームについては施設整備補助基準の4分の3の公的補助制度があるが、老健や療養施設にはこうした補助制度はない。
③(機能面)3施設の機能分担、特に、特養ホームと老健施設の違いがが利用者にとって分かりにくい。
④(介護報酬面)3施設の介護報酬は、従来の3施設の措置費や診療報酬水準などを踏まえて設定されたが、3施設間のバランスや他の施設的なサービスにおける介護報酬との比較の上で妥当なものと言えるか。
⑤(基盤整備面)厚生労働省の介護保険事業計画に対する基準では、3施設の整備目標は、高齢者人口の3.2%となっているが、今後とも増設することが適当か。やがて3施設の合計定員数が100万人を超えることも予想されるが、保険財政や高齢者介護のあり方などの観点から検討が必要。
機能分担からみた今後の課題
以上の課題のうち、機能分担については、本年3月の介護報酬の見直しにおいて、一定の方向付けがなされている(図参照)。特養ホームでは、個室ユニットケア(小規模生活単位型)の介護報酬の導入。老健施設では、在宅復帰につながる施設内リハビリや、自立支援につながる訪問リハビリに対する評価の充実。療養施設では、医学的管理が必要な重度要介護者に重点化した介護報酬の設定が行われた。
今回の見直しを踏まえた上での課題としては、次の点があげられる。
①老健施設に対しては、老健施設本来の機能を発揮することを誘導する見直しであるが、そうした場合、受け皿となる在宅生活を支える支援サービスとの密接な連携が必要であることや、在宅生活復帰の施設としては約30万人の定員目標(ゴールドプラン21)が必要かどうか、あるいは、長期間の入所生活を希望する利用者との間でニーズのギャップを生じるのではないか、等の課題がある。
②特養ホームと療養施設に対しては、要介護度が高い高齢者の入所施設に誘導する介護報酬の設定であるが、利用者の振り分けが円滑に進むかどうかという実際上の課題がある。
③介護報酬の設定が画一的なもので、サービスの質の向上に対する経営努力や利用者の選択を生かしたものとはなっていないきらいがある。
最後の点について付言すれば、現在の施設サービスに対する介護報酬は、要介護度別の定額給付であるため、介護職員を他よりも多く配置してサービスの質を向上させるというインセンティブや、利用者からの人気が高いという要素が評価されない。どの施設でも、同じような経営を誘導するものとなっている。事業者の経営努力の余地は、収入増の面ではなく、人件費等の軽費節減面に向かわざるを得ない。これが、人件費の削減やパート化の誘引となり、サービスの質の確保という観点からは適当ではない。たとえば、介護職員を増員して質の向上を図るような施設に対しては、上乗せの利用者負担を求めることができるというように、「施設間の健全な競争」を誘導するような仕組みが必要ではないだろうか。
(今月のポイント) 介護療養型医療施設
要介護療養型医療施設は、脳卒中や心臓病などの急性期の治療が終わり、病状が安定期にある老人慢性疾患患者の要介護者のための長期療養施設であり、「介護療養型施設サービス」が提供される。介護療養型医療サービスとは、施設サービス計画に基づいて、療養上の管理、看護、医学的管理下の介護等の世話、機能訓練、その他の必要な医療を行うものである。施設類型としては、療養病床(旧療養型病床群)、老人性痴呆疾患療養病棟がある。
療養病床は医療施設であるが、機能訓練室、談話室、浴室及び食堂の設置が義務付けられ、部屋の面積や廊下の幅も一般病床よりは広く、さらに、介護職員も一般病床よりも厚めに配置されるなど、慢性期の療養に適した環境になっている。
老人性痴呆疾患病棟は、精神科の病床であって、徘徊や問題行動のある痴呆性高齢者に対する慢性期の医療に対応して、長期間の医療と介護を提供する施設である。一般の精神病床に比べて、介護職員が重点的に配置されている。
2003(平成13)年10月1日現在、介護療養型医療施設数は、3,792、定員数は120,422人となっている。また、今回の介護報酬の見直しにおいて、3年間の期限付きで設定されていた看護職員6:1、介護職員3:1の施設に対する介護報酬は廃止された。
図 介護保険3施設の機能分担について
介護保険3施設の機能分担
【 第4回 2003年7月 】