被保険者の範囲

 3月10日の参議院決算委員会で、小泉首相は、「介護保険の被保険者の範囲を20歳以上にしてはどうか」という桝添要一議員(自民)の質問に対して、「保険であるので、被保険者は多い方が負担は少なくて済むし、サービスもよくなる。しかし、20歳では介護に関心が低く、保険料の負担にも抵抗が強い。40歳を過ぎれば親の介護を考える世代になることから、当面は40歳以上とした。本来ならば年齢は下げた方がよい。20歳以上ではなくても、30歳からでも負担をしてもらえれば全体としてはよいと思う」と答弁した(「週刊社会保障」3月17日号)。
 小泉首相の答弁からもうかがえるように、「40歳以上」という現行の被保険者の範囲は、「当面の措置」という暫定的なものであった。介護保険制度の創設検討を審議した老人保健福祉審議会の最終報告(1996年4月)では、被保険者の範囲について、「20歳以上」とする案と「40歳以上」とする案との両論併記であった。社会連帯の精神を基盤とする社会保険としては、被保険者の範囲をできるだけ幅広くすることが、理念的にも財政運営的にも望ましい。「40歳以上」というのは、いかにも暫定的な区分という印象を与える。これについて、当時は次のような説明がなされた。
 ①介護保険が対象とする老化に伴う介護ニーズは、高齢期のみならず、40歳以上の中高年期においても生じる可能性があること、②40歳以降になると、一般的に老親の介護が必要となり、家族という立場から介護保険制度による社会的支援という利益を受ける可能性があること、③高齢期の介護問題から年齢が離れている20~30歳代からは保険料負担の理解を得ることが困難であり、保険料の未納問題等につながるおそれがあること、から、当面40歳以上の者を被保険者としてスタートしたのであった。


年齢を引き下げることの理由と理解

 「当面の対応」であった「40歳以上被保険者方式」であるが、介護保険制度施行後、この年齢を引き下げるべきであるとする強い意見は聞かない。一応、この区分が被保険者の理解を得ていると見ることができる。毎年、介護保険制度などの高齢者施策について全国世論調査を行っている毎日新聞社の調査結果でも、「保険料を40歳以上ではなく20歳以上から徴収すべき」とする意見は、調査対象者全体の12%(2001年調査)である。一方、「保険料が高い」が42%、「保険料を支払う40歳以上65歳以下の人々の大半は掛け捨てにある」が34%(いずれも2001年調査)と、問題点の中で上位にランクされている。
 制度施行後5年後の見直しにおいて、「当面の対応」であった被保険者の範囲について、あらためて論議することは重要なことである。制度の建て方が異なるが、ドイツ介護保険制度では、年齢の区別はなく、全員が被保険者かその被扶養者として、介護保険給付を受けることができる。また、言うまでもないことであるが、社会保険を安定的に運営していくためには、より大勢の者が社会保険の支え手として保険料負担をすることが必要である。被保険者の範囲を「20歳以上」にまで拡大すれば、現行の1人あたり保険料水準は、約3分の2に軽減されるという計算になる。
 もっとも、小泉首相も懸念するように、保険料の負担増については抵抗が強いであろう。まして、現行制度のように第2号被保険者に対する給付がほとんどない状態では、被保険者の範囲を拡大したとしても、彼らの保険料負担は、高齢者への介護保険給付に対する財源のみの役割になってしまう。第2号被保険者は、特定疾病に起因する要介護状態等に対しては保険給付があるけれども、特定疾病自体が「老化に起因する疾病」であるため、40歳未満の者が該当する事例は、現在の第2号被保険者が受ける場合よりも小さなものになるであろう。また、20代から30代の世代は、現在でも、年金や老人医療費に対する保険料負担増の問題が論じられている。特に20代においては、いわゆるフリーター化の進行と高い失業率、国民年金保険料の未納・滞納問題を抱えている。
 このような状況においては、介護保険全体の保険料水準を引き下げるため、という理由のみで、被保険者の範囲を拡大することには、困難がつきまとうと言わざるを得ない。
 それではどうしたらよいであろうか。私見を述べれば、単に世代間連帯の視点ばかりでなく、世代内連帯として、第2号被保険者に対する保険給付の範囲を拡大することにより、20代から30代の若い世代に対して、保険料負担についても理解を得るように努めるという手段になるのではないか。
 被保険者の範囲の拡大というテーマは、本連載の第1回、第2回のテーマと不即不離の関係にある。「介護不安の解消」が制度創設の理念のひとつであるが、「介護不安」は、高齢期にとどまらず、若年者でも事故や障害に伴うものなど、さまざまな年齢世代に関わる問題である。介護保険制度の適用範囲がすべての年齢層に広がったときに、真に社会保険としての役割を介護保険制度が持つことになったと言えるだろう。


(今月のポイント) 被保険者

 「被保険者」とは、『広辞苑』によれば、「損害保険では、損害の填補を受けるべき者。生命保険では、その生死に関し保険がかけられる者」とある。社会保険の世界では、保険加入を強制され、保険料を負担する一方、保険事故に該当する場合には保険給付を受けることができる者、と定義できる。被保険者と似たような存在に、健康保険法等の医療保険における「被扶養者」があるが、被扶養者の場合には保険料負担は不要で、保険給付を受けることができる。介護保険制度では。被扶養者という概念はない。
 介護保険制度では、市町村に住所を有する40歳以上の者が被保険者とされるが、厳密に見ると、40歳以上でも除外されている人達がいる。
 まず、65歳以上の者は、基本的にすべて第1号被保険者である。40歳以上65歳未満の者では、健康保険法等の医療保険加入者が第2号被保険者となる。生活保護の被保護者の場合、医療保険未加入の扱いとなることが一般的なので、被保険者とはならない。ただし、65歳以上の生活保護の被保護者は全員、第1号被保険者となる。
 65歳以上の者や40歳以上65歳未満の医療保険加入者であっても、身体障害者療護施設に入所している人や、その他の適用除外施設に入所・入院している人は、当分の間、被保険者とはならない。適用除外施設は、長期間入所していて介護保険のサービスを受ける可能性が低いことや、重度の障害者が入所して施設から介護サービスを受けている、等の観点から、介護保険施行法第11条の規定やその政令で定められている。たとえば、重症心身障害児施設やハンセン病療養所、救護施設が該当する。
 なお、住所要件を満たす必要があるので、1年未満といった短期間日本に在留していて市町村に住所がない人には、そもそも介護保険は適用されない。
 被保険者は市町村等が定める保険料を負担する義務があるが、第2号被保険者のうち、健康保険法等の規定による被扶養者は、保険料負担は不要である。逆に、「特定被保険者」といって、健康保険法等の被保険者本人が40歳未満でも、その被扶養者者が第2号被保険者の場合には、第2号被保険者ではない被保険者本人が介護保険料を負担するという制度がある。

被保険者の年齢問題

【 第3回 2003年6月 】

© 2016 by Masuda Institute for Social Security.

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