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本年(2012年)7月のある日、読売新聞社の記者から私の勤務先の大学にメールが届いた。本年夏公表の「平成24年版厚生労働白書」に関する記事の執筆の参考として、私が、厚生省勤務時代に担当した「平成11年版厚生白書」について、電話でインタビューをしたいという。
1999(平成11)年春から夏にかけて、私は、厚生省(現在の厚生労働省)の大臣官房政策課の政策調査官であり、「平成11年版厚生白書」作成の実質的責任者として仕事をしていた。この白書のテーマは、「社会保障と国民生活」として、戦後約半世紀の歴史を経た日本の社会保障の到達点やその評価、社会保障の目的や機能、国民生活上に果たしている役割、そして将来に向けての課題を論じたものであった。社会保障の意義や役割について、真っ向から取り上げた白書は、当時としては珍しいもので、注目を集めた。また、社会保障の経済効果などの新しい視点も取り上げて、評判になった。
 ただし、一方で、白書を作る上での苦労もたくさんあった。文章のテニオハまで注文がつく内部協議や、所管権限がぶつかる各省協議に多くの時間をとられた。また、白書完成後の省内記者クラブへの説明の際に、「今回の白書は、私が九州大学に出向していた時に、学生たちが社会保障の意義や仕組みについてあまり知らないことから、大学の教科書としても使えるように作成した」と述べたが、これは、同席した上司から、そうした発言は問題だと指摘された。閣議に報告する白書を、大学生向けの教科書のつもりで作成したのはけしからん、というのだろうか、趣旨がよくわからない叱責であった。
 しかし、今年の白書、「平成24年版厚生労働白書」では、最初に、「学生等の若者世代も読者として想定して」と明言している。13年前の私の白書作成の思いが、後輩たちには自明の前提になったと、うれしくもあった。
 さて、以下が、私へのインタビューなどを踏まえて、読売新聞社社会保障部次長の阿部文彦氏が書かれた記事(2012年8月6日付読売新聞掲載)である。

 

サンデル教授の「白熱白書」


 〈経済不況とともに、社会保障制度に対する不安が高まっているのはなぜだろうか。現役世代の方が将来に対して暗いイメージを持ち、社会保障制度に対する不安が大きい〉
 13年前の1999年、厚生労働省の前身の厚生省は、21世紀に向け、社会保障の存在意義を正面から問い直す「厚生白書」を出した。世代間格差の見直しや、支え手を増やし、不安解消を図るという処方箋もすでに示されている。
 〈もはや戦後ではない〉(56年経済白書)。時に時代を切り取る名文句を生む白書は、行政の現状や問題点、将来展望を国民に知らせるのが役目だ。各省庁の40歳前後、働き盛りの官僚が執筆を任される。99年版白書を担当した増田雅暢さん(現岡山県立大学教授)は、「人々の連帯感で支えられる社会保障をよりよく発展させる重要性を若い世代に伝えたかった」と話す。
 その後の状況はというと、社会保障費は増え続け、国の借金も1,000兆円に迫る。一方で、少子化に歯止めがかからない。どれほどのサービスをどれだけの負担で提供するのか。社会保障の展望が開けぬまま、10年以上の無為に過ぎた。
 今年の厚生労働白書も社会保障の意義と役割を訴えるものになるという。水先案内人は「正義の話をしよう」でおなじみの米ハーバード大、マイケル・サンデル教授。若者受けも良い。社会保障・税一体改革の大義をどう平明に説くのか。便乗商法とちゃかすまい。白書がベストセラーになれば、失われた10年を取り戻す一助にもなろう。“白熱白書”に期待したい。

「平成11年版 介護白書」の思い出

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