去年の7月から内閣府に異動し、少子化社会対策に関する業務を担当している。12月には、少子化に関する初めての白書、「平成16年版少子化社会白書」を作成し、少子化の進展による人口減少社会の到来や、経済成長、社会保障に対する少子化の影響などを論じた。年末には、新エンゼルプランに代わる「子ども・子育て応援プラン」策定の取りまとめを行った。
本年1月になって、全国紙はいずれも「人口減少社会」あるいは「少子社会」をテーマにした連載記事を掲載している。来年(2006年)をピークに日本の総人口が減少に転じる、出生数の減少や出生率の低下傾向が続いている、こうした状況で、果たして日本社会はどうなるのだろうか、という問題意識である。今や、少子化問題は、最もホットな話題となっている。
1970年代から最近までは、高齢化問題が、社会のありように関する大きな問題であった。高齢者に対する年金、医療、介護などをめぐってさまざまな議論が行われ、日本の社会保障政策の多くが、高齢化問題への対応策として展開されてきた。その結果、高齢化対策についてみれば、わが国が西欧諸国よりも後塵を拝している、というかつて良く聞かれた議論はなくなった。
一方、少子化対策については、1994年のエンゼルプラン策定を契機に、政府としての取組が始まった。高齢化対策と比較すると歴史は新しいが、既に10年を経過している。それにもかかわらず、出生率の低下傾向には歯止めがかからない。これまでの政府の少子化対策は効果がなかったのではないか、もっと有効な方策はないのか、という声が大きくなっている。
社会の中で高齢者人口が増大し、高齢者の割合が高くなるという「高齢化」と、出生率が低下し、子どもの割合が小さくなるという「少子化」は、社会現象としてはコインの表と裏のような関係にあるが、対策の立案という観点にたつと、どうも様相が異なる。どういった点で違っているのだろうか。
第一に、高齢化問題は、稼得能力を失った、病弱な高齢者を社会でどう支えるのか、ということで「誰でも見える問題」であるが、少子化問題は、これから生まれてくる子ども達にかかわるもので、「なかなかはっきりとは見えてこない問題」である。
第二に、高齢化問題は「誰に対しても訪れる問題」であるが、少子化問題は、過半の人々にとっては「過ぎ去った問題」であり、避けてとおることも可能な問題である。
こうした点から、高齢化問題とは異なり、少子化問題は、これまで社会全体で対応していかなければならないという盛り上がりに欠けていたのではないだろうか。さらに、少子化対策の立案にあたる場合には、将来社会に対する想像力と、将来世代に対する思いやりが必要な気がする。
しかし、日本は、高齢化問題への対応では、介護保険をはじめ、今や世界を先導するくらいにきめ細かく対応してきたのであり、高齢化問題への対応で成功した経験とエネルギーを少子化問題にぶつけていけば、必ずや新たな展望が開けるのではないだろうか。
少子化と高齢化の2つの問題
「年金時代」2005年2月号(社会保険研究所)