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 「親になる」を考える会を設立
本年6月11日、「『親になる』を考える会」を設立しました。
座長は、2003年出版の『バカの壁』で大ベストセラーを記録した脳学者の養老孟司氏です。他の委員は、ヤンマーディーゼルのサッカー部監督として日本リーグ等で何度も優勝経験を持つJリーグチェアマンの鬼武健二氏、『リング』『らせん』等のベストセラー作家であり、男性の子育てについても積極的に発言している鈴木光司氏、労働経済学が専門で、ワーク・ライフ・バランスの推進を提唱する慶応義塾大学教授の樋口美雄氏、地域で子育て支援活動を主宰し、昨年、日本経済新聞社から子育て支援大賞を受賞した新座(にいざ)子育てネットワーク代表の坂本純子氏です。私は、この会の事務局長役を務めることとなりました。
この会では、親になり子どもを育てることが負担であるという否定的な見方をするのではなく、親になって子どもを持ち、育てることが喜びである、楽しい、大切なことであるというように、親になることの見方を変えていくための社会運動を起こそうということをねらいとしています。

 少子化の進行と少子化の問題
「少子化」という言葉は、現在の日本ではすっかり人口に膾炙しました。1970年代半ばの第2次ベビービーム以降ほぼ30年間にわたって、出生数、出生率の低下傾向が続いています。政府は90年代中頃から少子化対策に取り組んでいますが、出生率の低下傾向に歯止めがかかりません。特に、2004年は、合計特殊出生率(女性が生涯に出産する子ども数の推計値)が1.29と、「超少子化国」と呼ばれる水準である1.3以下となり、「1.29ショック」と言われました。このままの出生率が続くと、西暦3200年には日本人は1人になってしまうという数値です。
すでに教育現場でも、子ども数の減少からくる小中学校の統廃合、大学の全入時代の到来等、少子化の進行がさまざまな影響を及ぼしています。子ども達の成長過程においても、同年代の仲間達と切磋琢磨して育つ環境や、乳幼児とのふれあいを持つ機会が少なくなっています。このことが、大人に成長しても、自立心や子どもを思いやる気持ちに欠ける要因になっているのではないかと懸念されています。

 親になることの楽しさを伝える
少子化対策には、大きく4つの分野があります。
保育サービスの充実など地域における子育て支援の推進、育児費用や教育費用の負担軽減等の経済的支援、育児休業取得促進や短時間労働等の働き方の見直し、そして、子どもを大切にし、子育て家庭を社会全体で支援するという意識改革です。このうち、前3つの分野については、90年代後半から、国、地方自治体、企業等において、「エンゼルプラン」、「子ども・子育て応援プラン」や次世代育成支援対策推進法等に基づき、取組が進められています。しかし、最後の分野は、わたくしたちひとり一人の意識変革が要求されるものですから、なかなか短時日のうちに実現できるものではありません。
たとえば、子育ては本来楽しいものであるにもかかわらず、子育てに負担感を感じる若い人たちが多いと言われています。こども未来財団が行った「子育てに関する意識調査」(2003年)によると、子育てをつらいと感じている人は、実際に子どもがいる子育て世帯よりも、子どものいない未婚層や中学高校生に多いという興味ある結果がでています。子育て世帯では、「子育てを楽しい」と感じる人は82.6%という高率であり、「つらい」と感じる人は17.4%ですが、子どものいない未婚層では、「楽しい」と感じる人は59.6%に減少し、「つらい」と感じる人が40.4%と高くなります。中学高校生の場合も、「楽しい」と感じる人は66.4%、「つらい」と感じる人は33.5%と、子どものいない未婚層と同じような結果となっています。
子どもを持てば子育てに楽しさを感じることができるのに、子どもがいない状態では、子育てに関して負担感を持つ人が多いということは、前述したように乳幼児とのふれあい体験が少ないまま大人になったり、子育てを否定的なイメージで思い込んだりしている傾向が反映しているようです。「親になる」を考える会では、特に若い世代に対して、こうしたイメージを変えて、子どもを持つこと、すなわち親になることは喜びであり、楽しいというメッセージを発信していきたいと考えています。

 子どもと共に過ごす時間を拡大する
 今年の『国民生活白書』は、「つながりが築く豊かな国民生活」をテーマにしていますが、その中で、父親が子どもと過ごす時間が少ない実態が浮き彫りにされています。父親の4人に1人が平日ほとんど子どもと接しない、接したとしても、30分以内の人が3人に1人となっています。未成年の子どもを持つ親が平日に子どもと過ごす時間について、国立女性教育会館が主要5カ国と比較調査をした結果によると、日本の父親は韓国に次いで短く、タイ、アメリカ、フランス、スウェーデンと比較をするとだいぶ短い状況です。子どもとのつながりが薄い原因は長時間労働であって、父親の3人に1人は夜9時以降の帰宅です。このため、父親と子どもに生活のすれ違いが生じています。
『国民生活白書』によれば、父親、母親、子どもといった家族全員の起床在宅率(自宅にいて起きている人の割合)がすべて50%を超える時間帯は、午後8時から午後9時台のみとなっています。午前7時台の朝食時や午後7時台の夕食・だんらん時には父親以外の起床在宅率は50%を超えていますが、このとき父親が起きて自宅にいる家の割合は半分以下となっています。これでは、家族間のつながり、特に父親と子どものつながりが希薄になるおそれがあります。父親と子どものつながりの希薄さは、子どもに対するしつけや家庭教育の面でも、マイナスの要因となって働くことになります。
子育ての期間というのは、子どもの成長後に振り返ると、そんなに長い期間ではありません。子どもの乳幼児期もあっという間に過ぎてしまいます。子どもが誕生してから小学生期までの時期に、子どもを慈しみ、育てていくというのは、親の大事な責務です。母親だけに子育てを依存するのではなく、父親も子育てを分担する必要があります。それは、親の責務であるとともに、生涯の中で子育ての楽しさを実感できる貴重な時間でもあります。
父親が子どもと共に過ごす時間を拡大するためには、育児休業の取得促進や子育て期間中の短時間就労、長時間労働の是正等の取組が必要です。あわせて父親自身の意識改革も重要です。「親になる」を考える会の坂本委員の新座子育てネットワークでは、カナダ政府の事業との交流を基に、「お父さん応援プロジェクト」という父親支援事業を展開しています。父親(男性)の子育て支援の機運とノウハウを高めることにより、父親が子育てに積極的に参画し、子育ての大切さや楽しさを体得できるようにするユニークな活動です。

 「家族の週間」にあわせて活動を展開
 「親になる」を考える会は、これから会の趣旨に賛同する企業を募ることとしています。協賛企業と一緒に活動することにより、民間主体で社会的に広がりがある運動を展開できないかと考えています。
 まず、ホームページ(http://www.oyaninaru.jp/)。を立ち上げて、本会の活動をPRしています。いずれは意識調査や、委員によるシンポジウム等を行う予定としています。
また、内閣府では、家族・地域のきずなを再生する国民運動の一環として、11月の第3日曜日を「家族の日」とし、前後2週間を「家族の週間」と定め、フォーラムの開催や標語の公募等を行う予定としています。そこで、本会でも、親になる喜び、親になる新しい価値観を具体的なコミュニケーションとして世の中に広めた活動や作品に対して、会独自の基準で選出し、家族の週間の時期に表彰を行うこととしています。
昨年の合計特殊出生率は1.32と、4年ぶりに1.3台に回復しました。出生児数は、109万2,622人と、一昨年よりも3万132人増加しました。このうち第1子は54万7,170人です。日本中で、約108万人の父親と母親が新たに誕生したことになります。新しい命が健やかに成長していくように、そして、親の仲間入りをした108万人の父親・母親が子育ての喜びと大切さを実感できるように、社会全体の子育てに対する意識を変え、かつ、社会的に子育て家庭を支援していくことが、少子化の流れを変えていくことにつながるものと考えています。

親になることの楽しさと大切さ

「教職研修」(2007年9月号、一部修正)

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