子どもを生み育てやすい国かどうか

 内閣府参事官時代に、日本、韓国、アメリカ、フランス、スウェーデンの5か国の20代から40代の人を対象に「少子化社会に関する国際意識調査」を実施しました。調査結果では、各国の結婚、出産、子育てに関する意識の特徴が浮き彫りになりました。調査の中で「子どもを生み育てやすい国かどうか」について尋ねたところ、出生率が高い国では肯定的な意見が多く、出生率が低い日本・韓国では否定的な意見が多いという結果となりました。スウェーデンでは98%、アメリカでは78%、フランスでは68%の人が「生み育てやすい国と思う」とこたえています。しかし、日本では肯定派は46%、否定派は50%でした。日本よりも出生率が低い韓国では否定派が80%と高い結果となりました(同調査結果は、内閣府のホームページに掲載されています)。
 出産・子育ての時期に相当する国民の多くが「子どもを生み育てやすい国」と意識している国では、当然のことながら出生率は高くなります。日本も早く肯定派が大多数になればよいのですが、そのような国となるように環境整備をしていくことは簡単なことではありません。

 子育て家庭のニーズに十分こたえていなかった少子化対策
 日本の少子化対策をふりかえると、1990年代半ばに「エンゼルプラン」が策定されて以降多くの計画を立てられ、さらには基本法も制定されています。ところが出生率の低下傾向に歯止めがかかりませんでした。なぜ多くの計画が効果を発揮してこなかったのでしょうか。
 その答えを簡潔にいえば、子育て家庭のニーズに十分こたえることがない、一面的かつ内容の乏しい対策であったからです。たとえば、エンゼルプランは保育所充実策であり、両立支援策はキャリア女性向けの政策です。これらの政策が重要であることはもちろんですが、保育所を利用しない在宅の子育て家庭、子育て期間中は仕事よりも自分の手で子どもを育てることに専念したいと考える女性のニーズにこたえる政策は乏しい状況にありました。さらに、ニーズが最も高い経済的支援策は厳しい財政事情からほとんど講じられませんでした。

 総合的な少子化対策を
 人が結婚し、子どもを生み育てるという過程にはさまざまな要素が関係しているので、出生率の回復のためには、どれか一つの施策で十分というような「特効薬」はありません。私は、次の4点を基本柱として総合的に取り組むことが「子どもを生み育てやすい国」に変化していく道と考えています。
 ①保育所や放課後児童クラブなど地域の保育サービスの充実
 ②育児・教育費用の負担軽減を図る経済的支援策の充実
 ③長時間労働の是正や育児休業取得促進などの働き方の見直し
 ④子どもや子育て家庭を大切にするという社会全体の意識改革
 少子化対策についてメニューは出そろったので、施策の効果をみて優先順位をつけるべきという議論がありますが、それは正しくありません。まだまだ不十分な施策ばかりです。都市部では保育所は不足し、認可外保育所の利用者には支援策は乏しいという状況は10年来変わっていません。放課後児童クラブの指導員の処遇改善は遅々として進みません。児童手当は支給額も支給範囲も低水準であり、所得制限を設けているのは日本くらいです。男性の育児休業取得促進のためには、パパクォータ制の導入と育児休業給付金の引上げが効果的なのですが、現在政府で検討されている改正案ではそこまでは提案されていません。
 他方で、光明も見えてきました。出生率は2006年から反転上昇傾向にあります。また、地方自治体の首長選挙では子育て支援が公約の上位に位置し、特徴ある取り組みが数多く見られるようになりました。将来の日本を支える世代をどのように育成していくのかということは、現代を生きている私たちの責任です。政策関係者には、「財源がないのでできない」という言い訳の姿勢ではなく、最重要課題として取り組み、ヨーロッパ並みに生み育てやすい国に変えていくという気構えと実行力を期待します。 

厚生労働白書-社会保障の現状と課題を分析

「まなぶ」2009年10月号(労働大学出版センター)

© 2016 by Masuda Institute for Social Security.

  • Facebook Black Round
  • Google+ - Black Circle
  • Twitter Black Round